September 1191998

 新涼の画を見る女画の女

                           福田蓼汀

アリの一句。会場の様子を画として見ている。画を見るのに少し疲れた作者は、長椅子にでも腰掛けているのだろう。会場は閑散としていると思われる。と、そこに妙齢の美女が現れた。どんな画の前でたたずむのかと好奇の目を光らせていると、彼女は女性が描かれている画の前で足を止めた。裸婦像かもしれない。そこで彼女の視線を追って、作者はもう一度その画を眺めやり、また件の女性に目を戻したというわけだ。したがってこの場合の新涼は、天然自然のそれというよりも、むしろ女が女の画をまっすぐに見つめている爽やかな雰囲気を表現している。最近はたまにしか展覧会に出かけないが、他人がどんな画に興味を示すのかは、かなり気になる。その他人が美女となれば、なおさらだ。わかっているのか、わかっていないのか。あるいは、お前なんかにわかってたまるかなどと、意地悪い目で会場の客を見ていたりする。観賞眼に自信があるわけではない。曲がりなりにも美術記者として社会に出た経験から、とくに他人の趣味嗜好が気になるだけである。若き日の職業柄からとはいえ、まことにもって因果なことである。(清水哲男)




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