September 0691998

 町あげてミスコンクール秋蝿殖ゆ

                           ねじめ正也

戦後十年目(1955)の句。いつの時代にも小売業者(作者は乾物商)にとって町の活性化は、大問題だ。とにかく、まずは町に人が集まってくれなければ話にならない。だから商店会では知恵を出し合って、集客できそうな祭りやイベントを繰り返し行う。ミスコンクールなどは当時からいまにつづく古典的な客寄せ法のひとつで、その意味では若い女性の威力には目を見張らされるものがある。戦後の各地で、いったいどれくらいの「ミス……」が誕生したことだろう。「ミス古墳」なる栄冠に輝いた女性もいた。ところで、ここでの作者は「町あげて」と書いてはいるけれど、本当はどうも盛り上がっていないらしい雰囲気だ。乾物商とミスコンクールとのミスマッチもさることながら、たとえばコンクールへの応募者が少なくて、町の顔役連中が頭をかかえている状態も考えられる。そんな雰囲気のなかで、作者はしつこく商品につきまとう蝿を追っている。でも、秋の蝿は弱々しいから、なかなか逃げてくれないのである。鬱陶しい気持ちのせいか、このごろはイヤに蝿が殖(ふ)えてきた感じなのでもある。『蝿取リボン』(1991)所収。(清水哲男)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます