August 2581998

 東京の膝に女とねこじゃらし

                           坪内稔典

味不明なれど色気あり。それは読者が「膝」と「女」と「ねこじゃらし」を、一度に頭のなかに出現させるからである。つまり「東京の女の膝にねこじゃらし」とでも、一瞬読もうとする力が働くからなのだ。どこにもそんなふうには書いてないのに、意味を求めて文字を読む習癖がそうさせるのである。そこらあたりの習癖を熟知している作者は、こう書いた後でペロリと舌を出したかもしれない。作者は常々「わかりやすい言葉で気軽に口ずさめる俳句」を主張している。そのことからすれば、この句はまさにそのとおりの作品であり、故意に意味不明に仕上げた成果がよく出ていると思う。さらには舞台を東京にセットしたところも、ニクい配慮だ。べつに東京でなくても、作者の住む大阪だって、他の地名だって構わないようなものだが、東京がもっとも野の草とは縁遠い地方であることが計算されている。東京でないと、これだけの色気は出てこない。ヒマな人は、いろいろな地名と入れ替えてみてほしい。楽しい句だ。『ぽぽのあたり』(1998)所収。(清水哲男)




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