August 2481998

 秋風に売られて茶碗括らるゝ

                           飴山 實

の箱に収められるような立派な茶碗ではない。小さな瀬戸物屋の店先で、うっすらと埃をかぶっている二束三文の安茶碗だ。それを何個も買う人がいて、店の主人が持ち帰りやすいようにと細い縄で括(くく)っている。茶碗の触れ合う音に秋の風。ちょっと侘びしげな光景である。この句から受けるセンチメンタルな気分は、茶碗が日常生活の道具だからだろう。こうして括られ売られていく茶碗は、どんな家庭のどんな食卓に乗せられるのか。作者の頭を、ちらりとそんな想像がかすめたにちがいない。生活のための道具には感覚的に生臭いところがあって、あまり想像力を働かせたくないときがある。この場合もそうであり、心地好い秋風のおかげで、作者は生臭さから免れているというわけだ。句の主語を茶碗にしぼったのも、同じ理由によるものだろう。話は飛ぶが、横山隆一の人気漫画『フクちゃん』に出てきた友達のコンちゃんやキヨちゃんの家は、たしか瀬戸物屋である。アメリカ漫画のチャーリー・ブラウンの家が小さな床屋であるように、小さな瀬戸物屋も、昔の日本ではどこにでもある格別に珍しくはない店のひとつだった。『少長集』(1971)所収。(清水哲男)




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