August 2281998

 炎天にテントを組むは死にたるか

                           藤田湘子

所の集会所の庭でもあろうか。炎天下、あわただしくテントが組まれている様子から察して、どうやら葬儀の準備のようだ。それだけの中身の句である。しかし、気になるのは「死にたるか」という言葉使いだ。解釈は二つに分かれる。ひとつは「とうとう亡くなったのか」という意味で、町内の顔見知り程度の長患いの人の死を指している場合。もうひとつは素朴に疑問符的に使われていて、誰かが「亡くなったのだろうか」という意味の場合。いずれであるかは作者にしかわからないことだが、いずれであるにせよ、この「死にたるか」という言葉はずいぶんと直截な物言いだ。ストレートに過ぎる。あるいは、死者を必要以上に突き放した言い方だ。なぜだろうか。私の読み方では、炎天下という条件が、作者にこのいささか乱暴な言葉を吐かせたのだと思う。極暑のなかのぼおっとした頭の状態で物事を判断したり表現したりする、そのぼおっとした効果を敢えてねらった句なのではないだろうか。すなわち、この句のテーマは誰かの死や葬儀にあるのではなく、炎天下での人間の判断力にあるというのが、私なりの解釈だ。まったく自信はないのだけれど。『春祭』(1982)所収。(清水哲男)




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