August 1381998

 豪傑も茄子の御馬歟たままつり

                           幸田露伴

田露伴は、言うまでもなく『露団々』『五重塔』などで知られる明治の文豪だ。『評釈俳諧芭蕉七部集』という膨大な著作があり、俳句についても素人ではない。「歟」とは難しい漢字だが、ちゃんとワープロに入っている(いまどき誰が何のために使うのだろうか)。読み方は「か」ないしは「や」。文末につけて疑問・反語を示す(『現代漢語例解辞典』小学館)。ただし、ここでは一般的な切れ字として使われている。かつては荒馬にうちまたがって戦場を疾駆していた豪傑も、この世の人でなくなって、なんとも可愛らしい茄子のお馬さんに乗って帰ってきたよ…。と、いうところか。言われてみればコロンブスの卵だけれど、盂蘭盆会(魂祭)の句としては意表を突いている。稚気愛すべし。楽しい句だ。ところで、私が子供だったころまでは、茄子の馬などの供え物は、お盆が終わると小さな舟に乗せて川に流していた。いまではナマゴミとして捨てるのだろうが、なんだかとてもイタましい気がする。さすがの豪傑も、そんな光景には泣きそうになるのではあるまいか。『蝸牛庵句集』(1949)所収。(清水哲男)




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