August 1081998

 桃の種桃に隠れむまあだだよ

                           中原道夫

桃、水蜜桃……どう呼んでもいいけれど、やわらかさと品位ある香りで、私たちを魅了してやまない初秋のくだものの王さま。道夫は視点をちょいとずらして、水蜜したたる果肉の奥に隠れひそむ種にズバリ迫らんとする。水気たっぷりの果肉を惜しむように、しゃぶりつきながら徐々に種へと迫る。鎮座まします種はまるで宝物のようだ。世に桃を詠んだ句は多いが、その種を詠んだ句はわずかしかない。あわてず、ゆっくり、隠れんぼの鬼でも探すように「もういいかぁーい」と、楽しみながらしゃぶり進む様子。まじめに言うのだが、桃はどこか道夫のアタマに似てはいまいか。うん、種もどこかしら似ているような気がしてくる。最新の句集『銀化』(1998)374句中の一句。道夫は10月からいよいよ結社「銀化」を主宰する。(八木忠栄)




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