August 0581998

 縛されて念力光る兜虫

                           秋元不死男

虫をつかまえてくると、身体に糸を結び付けてマッチ箱などを引っ張らせて遊んだ。昔の子供にとっては夏休みの楽しみのひとつだったが、作者からすれば兜虫は「縛されて」いるのであり、文字通りに五分の魂を発揮して、こんなことでくじけてたまるかという念力の火だるまのように見えている。弱者への強い愛情の目が光っている。これだけでも鋭い句だが、ここに作者の閲歴を重ね合わせて読むと、さらに深みが増してくる。秋元不死男は、戦前に東京三(ひがし・きょうぞう)の名前で新興俳句の若手として活躍中に、治安維持法違反の疑いで投獄された過去を持つ。したがってこの句は、当時の自分自身や仲間たちの姿にも擬せられているというわけだ。戦後は有季定型に回帰して脚光を浴びたのだが、没後(1977没)の評価はなぜかパッとしない。なかには「不孝な転向者」という人もいるほどだ。そうだろうか。この句や「カチカチと義足の歩幅八・一五」などを読むかぎりでは、有季定型のなかでも社会のありようへの批評精神は健在だと読めるのだが……。『万座』所収。(清水哲男)




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