August 0381998

 川に音還る踊の灯の消えて

                           岡本 眸

句での「踊」は盆踊りのこと。川端でのにぎやかな盆踊りの灯も消えると、人々は三々五々と散りはじめ、次第に静かな闇の世界が戻ってくる。宴の最中もいいものだが、その散り際にも情緒がある。なお去りがたく思っている作者の耳に、それまでは聞こえてこなかった(すっかり忘れていた)川の音が鮮やかに還ってきたというのである。ただそれだけのことでしかないのだけれど、盆踊りが果てた後のなんとも言えない寂寥感をきちんととらえており、絶品だ。私の田舎の盆踊り会場も、いつも川畔の小学校の校庭だったから、実感的にもよくわかる。田舎にも、最近はとんとご無沙汰だ。田舎の盆踊りには都会に出ている人たちがたくさん帰ってくるので、そのことだけでも十分に興奮できる要素がある。なつかしい顔を灯のなかでつぎつぎに見つけているうちに、なんだかそこが「この世」ならざる世界にも思えてきたりするのである。数年前、この我が母校も過疎の村ゆえに廃校になったという。山口県阿武郡高俣村立高俣小学校。父の出身校でもある。『朝』(1971)所収。(清水哲男)




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