July 2971998

 薮から棒に土用鰻丼はこばれて

                           横溝養三

日は、この夏の土用丑の日。鰻たちの厄日。毎年日付が変わるので、忘れていることが多い。作者も、そうだったのだろう。だから「薮から棒に」なのである。夕飯時のちょっとした出来事、いや事件だ。こういう事件は、しかし嬉しいものである。作者は「おいおい、どうしたんだ」と言いかけて、はたと今日が丑の日だったことに気がついたというところか。この句は、何種類もの歳時記に登場している。作者の嬉しさが素直に伝わってくるので、人気があるのだろう。ところで、真夏に鰻を食べる効用については、うんざりするほどの情報があるから、ここには書かない。ただ、『万葉集』の大伴家持の歌に「石麻呂(いはまろ)に吾れ物申す夏痩によしと云ふものぞ鰻とり召せ」とあり、これは覚えておいて損はないと思う。もしかすると、今夜の食事時に使えるかもしれない。草間時彦で、もう一句。「土用鰻息子を呼んで食はせけり」。息子にとってこの親心はむろん嬉しいだろうが、本当は、息子の健啖ぶりを傍で眺める親のほうがもっと嬉しいのである。(清水哲男)




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