July 2571998

 暗く暑く大群衆と花火待つ

                           西東三鬼

火を待つのも句のように大変だが、打ち上げるほうは商売とはいえ、もっと大変だ。父が花火師だったので、よく知っている。両国の花火大会で言うと、打ち上げ船への花火の積み込みは正午までに終わらなければならない。それから仕掛けなどの準備を行う。炎天下、防火服を着ての作業だ。準備が完了しても、何人かは日覆いもない船に残る。19時10分から打ち上げ開始。その様子を、父は次のように書きとめている。「数百の小玉がいっせいに上がり、パリパリパリッといっせいに開花する。みんなは船板にはうように身をかがめ、じっと我慢する。そのうち火の粉や燃えかすがザーバラバラバラッと、われわれや防火シートの上に襲いかかる。燃えながらシートを直撃するのもある。これは恐ろしい。もし突き抜ければ、下にあるたくさんの連発が一度に発火し、大火災をおこすことになるからである。はじかれたようにみんなは起き上がり、バケツや火たたきでけんめいに火とたたかう。全部退治すると息つく暇もなく、次の仕掛の準備にかかる。火薬のついたものが露出するので、この間絶対に花火の演出はしないことになっている。連発の終わったものを片づけ、次の台を据えつけ速火線で連絡する。こうしたことを十回くらい繰り返す。暗がりで懐中電燈を照らしての仕事であるから、なかなか骨の折れることであった」〔清水武夫『花火の話』河出書房新社〕。(清水哲男)




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