July 2171998

 扇風機蔵書を吹けり司書居らず

                           森田 峠

った一人の司書がとりしきっている小さな図書館。作者は高校教師だったから、学校の図書室だろう。1981〔昭和56〕年の作品ということからしても、冷房装置のない図書館は他には考えられない。そんな暑い図書室に来る生徒はめったにいないので、いつも閑散としている。作者が本を借りようとしてカウンターに行ったところ、司書用の扇風機がまわっているだけで、姿が見えない。部屋にいるのが教師なので、彼は安心して少しの間席を外したのだろう。カウンターの背後には辞典や画集などの貴重本が並べられており、涼しげに扇風機からの風に吹かれている。窓の外からは、練習に励む野球部員たちの声…。学校の夏の図書室の雰囲気は、だいたいこういったものである。昔の公共図書館も同様で、この季節はあまり人気がなかった。ところが、最近の町の図書館は様相が一変してしまい、大にぎわいだ。ほどよく冷房はきいているし、おまけに静かだから、大いに混み合いだした。なかには昼寝の場所と心得ているとしか思えない人もいて、なかなかテーブルがあかないのには困る。はやく完璧な電子図書館ができてくれないものかと、勤勉な〔笑〕私が切に願うのがこの時期である。『逆瀬川』〔1986〕所収。(清水哲男)




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