July 0371998

 俤や夢の如くに西瓜舟

                           石塚友二

まには回顧趣味満点の句もいいものだ。俤(おもかげ)は、作者少年時代の初恋の人のそれである。舞台は「水の都」と言われていた頃の新潟だ。当時の(大正期の)様子を、作者は次のように書き記している。「堀割が縦横に通っていた時分の新潟は、そこが舟の通路でもあったから、夏は西瓜を積んだ舟が通り、主婦や女中といった人達がそれを買うべく岸の柳の下に佇む風景が見られたものである。また夕刻には褄取った芸者達の柳の下を縫いながらお座敷へ行く姿もあった」。この様子からして情緒纏綿……。年経た作者(六十九歳での作句)の回顧趣味を誘いだすには、絶好の舞台装置である。なお、俤の人のその後の消息についても若干の記述があり、句そのものが触発する情緒には無関係であるが、こういうことであったようだ。「それから凡そ五十年後、ふとしたことからその人の消息を聞かされた。若くして結婚したが、良人との関係が巧く行かず、三十歳を過ぎたばかりで自殺し世を去った、と」。ちなみに「西瓜」は「南瓜」とともに秋の季語とされている。現代ではどうかと思うが、特に受験生諸君は注意するように(笑)。『自選自解・石塚友二句集』(1979)所収。(清水哲男)




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