July 0171998

 夏痩せて豆腐一丁の美食思う

                           原子公平

べなければいけないと思うと、かえって食べたくなくなる。そしてふと、こういうことを思いついたりする。「豆腐一丁の美食」とは、何かの逸話か故事を踏まえているのかもしれない。このように、消滅の方向に向いた極端には「美」がある。しかし、ダイエットにはない。ダイエットは、一見肉体を滅ぼす行為に見えるが、結局は自己の消滅を望んではいないからである。消滅どころか再生を欲望する企みにすぎないからだ。ところで豆腐といえば、江戸天明期に『豆腐百珍』という本が出版されている。豆腐料理のレシピ集だ。最近入手した現代語訳本(京都山科・株式会社「大曜」刊)で見てみると、それぞれの料理には「尋常品」「通品」から「妙品」「絶品」まで六段階のランクづけがあって、眺めているだけで楽しい。夏痩せとも「美」とも関係なく、つくって食べてみたくなってしまう。ここで「絶品」のページから「辛味とうふ」の作り方をお裾分けしておこう。試したわけではないので責任は持てないが、うーむ、こいつは相当に辛そうですぞ。酒肴でしょうね。『海は恋人』(1987)所収。(清水哲男)

[辛味とうふ]かつおの出し汁に、うす醤油で味をつけ、おろし生姜をたくさん入れます。たっぷりした出し汁で、豆腐を一日中たきます。豆腐一丁につき、よく太った一握りほどの生姜を十個ほど、おろして入れるとよいでしょう。




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