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June 2261998

 屋上にサルビヤ炎えて新聞社

                           広瀬一朗

ルビアはブラジルが原産地だ。いかにも南国の花らしく、この花には可憐なところも、はかないところもない。したがって、まさか疎ましく思う人はいないだろうが、じっくりと観賞する人も少ないだろう。とにかく、ちっちゃなくせにやたらと元気で勢いがよろしい。そんな花を、作者は新聞社の屋上で見かけて、新聞社の仕事の勢いに似合っているなと合点したところだ。サルビアは、新聞社のような人の出入りが激しい建物の傍に植えられていることが多く、美術館や博物館、あるいは公共の施設などの花壇でよく見かける。生命力の強い多年草であり、花期も長いからであろう。ところで、この花の色はふつう緋赤である(和名を緋衣草というくらいだ)が、我が「花のアンチョコ」で調べてみたら、世界中に750種類ほど分布しているそうだ。色も多様で、緋赤以外にもピンクや紫、はては白色の花もあると書いてあった。白いサルビアか……。これだったら、可憐でもあり、はかない感じがするかもしれない。見てみたい。日本でも咲いているようだから、見たことがあるのかもしれないけれど、白色なのでサルビアとは思わなかった可能性はある。(清水哲男)

[東京新聞宇都宮支局・田島力氏からの情報提供] 品川駅港南口にある弊社(東京新聞)の屋上は人の出入りを想定していない、汚いアスファルト敷きの変哲もない場所でした。近くに食肉市場や汚水処理場があって悪臭が 絶えず、昼休みあたりに上がってくつろげるようなところではありませんでした。だれかが花の鉢を置いていたとは驚きです。私も一度思い屈したときに上がったことがあり、気を取り直してから職場に戻った記憶があります。広瀬氏がど んな思いで屋上に出てサルビアを見たのか、ふだん物静かだった方の激しい一面を見た思いがいたします。いま屋上は建て増し増築の五階となって、コンピュータールームに変じております。広瀬氏は平成6年9月に67歳で亡くなられました。


May 1652004

 サルビアを咲かせ老後の無計画

                           菖蒲あや

語は「サルビア」で夏。真夏の花のイメージが強いが、もう咲いているところもある。一年草で、花期は長い。一夏をまるで炎のように燃え上がり、やがて燃え尽きてしまう。そんなイメージの花だ。掲句はこのサルビアの特長をよく捉えて、「老後の無計画」に引き寄せている。作者には「サルビアを咲かせ」ている現在の手応えに比べると、不確定要素の多すぎる老後への計画などは漠然としすぎていて頼りないのだ。いつかはサルビアのように、我が身も燃え尽きてしまうのは確かだ。が、その燃え尽きる寸前までの計画を立てるといっても、どこから何をどのように考えていけばよいのだろう。気にはしながらも、ついつい無計画のままに日を送りつづけてきた。毎夏この花を咲かせることくらいしか、私には計画など立てられそうもない。ままよと開き直ったような気持ちも含まれているのだろう。サルビアを咲かせない私にも、身につまされる句だ。書店には定年後や老後の過ごし方みたいな本がけっこう並んでいるけれど、たまに拾い読みをしてみても、何の役にも立ちそうもない気がする。定年を控えた人が、よく老後の楽しみを言うのだが、あれも聞いていると絵空事のように思えてならない。漠然と世間が思い描いている老後のイメージと現実のそれとは、大きな食い違いがある。その食い違いを知るには実際の老人になってみなければ、誰にもわからないから厄介だ。作者のみならず、老後に無計画で臨む人のほうが、むしろ一般的なのではあるまいか。そんなことを思ってみたところで、何がどうなるわけでもないけれど。『炎環・新季語選』(2003)所載。(清水哲男)


November 02112009

 淋しくて燃ゆるサルビアかも知れず

                           山田弘子

のサルビアが好きだ。とくに、この季節の……。多くの歳時記では夏の季語とされているが、花期は長く、まだ盛んに咲きつづけている。他の植物がうら枯れていくなかで、その朱を極めたような様子には、どういうわけか淋しさを感じてきた。絶頂は既にして没落の兆しを孕んでいるからなのだろうか。長年こんな感じ方は私だけのものかと思っていたら、掲句があった。「かも知れず」とあるからには、作者もまた、自分だけの感性だろうかといぶかっているようにも思える。私にしてみれば、ようやく同志を得た心持ちがしている。サルビアといえば、だいぶ以前に女子大生三人組の「もとまろ」が歌っていた「サルビアの花」がある。失恋の歌だ。♪いつもいつも思ってた サルビアの花を あなたの部屋の中に投げ入れたくて……。私くらいの年齢には、こんなセンチな歌詞はもう甘ったる過ぎるのだけれど、淋しい歌にサルビアを持ってきた感覚はなかなかのものだと思う。ただし、作詞者はサルビア自体には淋しさを感じていない。むしろ元気な花と失恋との取り合わせから、淋しさを演出している。さて、早いもので季節は十一月。間もなく、さすがのサルビアの朱も消えてしまう。『彩・円虹例句集』(2008)所載。(清水哲男)


July 0972011

 サルビアの真赤な殺し文句かな

                           徳永球石

ルビアの赤はまさに赤、紅ではない。今ちょうど試験の採点に使っているこのサインペンの赤、どことなく郷愁を誘う色である。この赤といい、殺し文句というフレーズといい、ひと昔前の香りがしている。この赤が、真っ赤な嘘、と同じだとすれば、あからさまな、明らかな、という意味合いだ。サルビアの花言葉のひとつは情熱、原産国はブラジル。群生して咲くサルビアの赤は圧倒的ではあるけれど、そんな殺し文句には惹きつけらると言うよりちょっと引いてしまいそうである。『新日本大歳時記 夏』(2000・講談社)所載。(今井肖子)




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