June 0561998

 ゆくりなく途切れし眠り明易し

                           深谷雄大

くりなくも旧友に出会った。……などと、普通「ゆくりなく」は「思いがけなく」といったような意味で使われる。「ふと」などより心情的色彩が濃い言葉だ。したがって、夢が「ゆくりなく」も途切れることはあっても、自然体の眠りについての言葉としてはそぐわない。眠りそのものには、眠っている人の意志や心が関与していないからだ。人は毎朝思いがけず目覚めているのではなくて、自らの心のありようとは無関係に起きているはずである。そのことを承知で、作者は自然に目覚めたのにも関わらず、眠りが「ゆくりなく」も早めに中断されたとボヤいている。理不尽と捉えている。ここが面白い。などと呑気に書いている私も、実はこのところよく思いがけない(ような)目覚めに出会う羽目になってきた。ひとえに年齢のせいだと思っているのだが、夜明け前直前くらいに目覚めてしまい、後はどうあがいても眠れなくなってしまうのだ。こいつは、かなり苦しいことである。老人の早起き。あれはみな、本人にとっては睡眠の強制執行停止状態なのだろう。となれば、老人の眠りに限っては「ゆくりなく」の使用がノーマルに思えてくる。「俳句界」(1998年6月号)所載。(清水哲男)




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