May 1851998

 木苺の種舌に旅はるかなり

                           千代田葛彦

いがけなくもひさしぶりに、実に四十年ぶりくらいに、木苺を味わうことができた。京都在住の友人である宇佐美斉君から「つぶれないでうまく着くといいのですか……」という手紙が添えられて、昨日日曜日の朝に届けられたからだ。昨今は冷蔵して送れる宅配便があるからであって、昔であればとてもこんな芸当はできなかった。ほとんどつぶれないで、うまく届いてくれた。宇佐美君は昨年の6月6日のこのページを読んでくれ覚えてくれていて、多忙ななかをわざわざ摘んで送ってくれたのである。変わらぬ友情に深謝。早速その一粒を舌の上に乗せると、まことに鮮やかに田舎での少年時代のあれこれがよみがえってきた。陶然とした。芭蕉のように人生を旅だと規定するならば、気分はこの句の作者と同様に「はるかなり」の感慨で一致したのである。そして野趣に富んだ木苺の味は、多く種の味に依っているのだと、いまさらのように納得した次第でもある。(清水哲男)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます