May 0651998

 おそるべき君等の乳房夏来る

                           西東三鬼

着の季節。この句は、なんといっても乳房を「おそるべき」ととらえたところが斬新だ。もとよりいうところの「巨乳」をさしているのではなく、「君等の」とあるように、すべての女性の乳房に、作者は圧倒されている。このとき「おそるべき」は「恐るべき」であり、同時に「畏るべき」でもあるだろう。女性と母性の象徴としての乳房。夏はいつも、そのように崇高な生命力を掲げてやってくる。気力充実した、肉太の一筆書きを思わせる生命賛歌だ。ただ、ちょっと気がかりなのは、女性はこの句をどんなふうに読むのかという点だ。案外、感応しない人が多いかもしれない。しょせんは男にしかわからない句なのかもしれない。なんとなく、そんな気がしているのだが……。『西東三鬼句集』(角川文庫・絶版)他に所収。(清水哲男)




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