May 0551998

 草笛や子らの背丈をさだかには

                           山田みづえ

笛は高音を得意とするので、遠くからの音もよく聞こえてくる。島崎藤村の詩を引き合いに出すまでもなく、哀調を帯びた音色だ。わけあって子供たちと別れた作者は、どこからかかすかに聞こえてくる草笛の音に、幼子たちとの日々を思い出している……。が、悲しいことに、子供らの背丈をもはや知ることは適わない宿命を嘆いている。母親としての胸のつまる想いが、遠くの草笛によって誘いだされている。同じ作者に「こどもの日は悲母の一日や家を出でず」があるので、よけいにこの草笛の音色は身にしみてくる。ところで、最近では草笛を吹く人も少なくなったが、この季節の公園などに行くと、たまに吹いている年寄りがいたりする。たいていの人が得意げに吹き鳴らしているので、私は嫌いだ。吹き方ひとつで、「どんなもんだい」という心根のいやしさがわかってしまう。「アホか」と、私は聞こえなくなる風上の遠いところまで歩いていく。『忘』(1966)所収。(清水哲男)




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