May 0251998

 旅にて今日八十八夜と言はれけり

                           及川 貞

春から数えて八十八日目が「八十八夜」。今年は今日にあたる。ちなみに「二百十日」も立春から起算した日だ。農事暦の定番みたいな日だが、とくに「八十八夜」でなければならないという農事はない。「八十八」という縁起の良い末広がりの数字から、そろそろ仕事に本腰を入れなければ……という農民の気合いが込められている日と解釈すべきだろう。都会人である作者は、旅先で今日の「八十八夜」を土地の人に知らされ、情趣を感じると同時に、どこかで少しだけ後ろめたい気分にもなっている。この季節に、多忙な農村をいわば遊びで訪れている自分を、ちょっと恥じているのだ。「言はれけり」という強い表現は、そのような苦さを言っているのだと思う。時、まさにゴールデン・ウィーク、それこそ今日あたり、日本のどこかでは「言はれけり」と認めている人がいるかもしれない。(清水哲男)




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