May 0151998

 春風の日本に源氏物語

                           京極杞陽

集では、もう一句の「秋風の日本に平家物語」とセットで読ませるようになっている。どこか人をクッたような中身であり構成であるが、作られた年代が1954年であることを知ると、むしろ社会の流れに抗議する悲痛な魂の叫びであることがわかる。戦後も、まだ九年。私は高校二年生だった。何でもかでも「アメリカさん」でなくては夜も日も明けないような時代で、日本の古典なんぞは、まず真面目に読む気にはなれないというのが、多くの庶民の正直な気持ちだったろう。事実、たしかに私は高校で『源氏物語』を習った記憶はあるけれど、そんなものよりも英語が大事という雰囲気が圧倒的だった。だからこそ、逆にそんな風潮を苦々しく思っていた人もいたはずである。作者は一見ノンシャラン風に詠んでみせてはいるのだが、この句に「我が意を得た」人が確実に存在したことは間違いないと思われる。「反米愛国」は、かつての日本共産党のスローガンだけではなかったということだ。『但馬住』(1961)所収。(清水哲男)




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