April 2841998

 蛇穴を出て今年はや轢かれたり

                           竹中 宏

眠から覚めた蛇が穴から出てきた。が、すぐに、あっけなくも車に轢かれてしまった。なんというはかない生命だろう。突き放したような詠み方だけに、余計にはかなさがクローズアップされている。最近の東京では、青大将が出ただけで写真つきの新聞記事になる。それほどに珍しいわけだが、作者は京都の人だから、おそらくは実見だろう。作者について付言しておけば、高校時代から草田男の「萬緑」で活躍し、私とはしばらく「京大俳句会」で一緒だったことがある。当時、草田男に会う機会があり、「これからは君たちのような若い人にがんばってもらわなくては……」と激励された。二人とも詰襟姿で、雲上人に会ったようにガチガチに緊張したことを思い出す。直後、私は俳句をやめてしまったが、彼はその後も研鑽を積み、現在は俳誌「翔臨」を拠点に旺盛な作句活動を展開している。「翔臨」(1998・31号)所載。(清水哲男)




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