April 2441998

 苗床にをる子にどこの子かときく

                           高野素十

かにも「そのまんま俳句」の素十らしい作品だ。苗床などという場所に、普段は子供は立ち入らない。そこに子供がいたので、なかばいぶかしげに、作者は思わずも「どこの子か」と聞いたのである。そういえば、私が子供だったころには、よく「どこの子か」と聞かれた。いぶかしさもあってのことだろうが、半分以上は心配する気持ちからだったろう。それにしても、この「どこの子か」という聞き方は面白い。名前ではなくて、所属を聞いているのだ。名前よりも所属や所在、つまり身元の確かなことが重要だった。狭い田舎のことだから、それを答えると、どの大人も「ああ」と納得した。今はどうだろう。子供に「どこの子か」と聞くこともないし、第一、そんな聞き方をしたら警戒されてしまうのがオチだ。素十の「そのまんま俳句」も「そのまんま」ではなくなってきたということ。『初鴉』(1947)所収。(清水哲男)




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