April 1941998

 玉のせるかに春眠の童の手

                           上野 泰

野泰の春眠の句と言えば、先頃大岡信さんも「折々のうた」で取り上げていた「春眠の身の閂を皆外し」が有名だ。義父にあたる虚子が、第一句集『佐介』の序文に「新感覚派。泰の句を斯う呼んだらどんなものであらう」と書いているが、たしかに仕掛けのある句を多く詠んだ人だった。しかし、あえて横光利一などの事例を持ち出すまでもなく、「新感覚」は面白いと思っても、すぐに飽きてしまうところがある。それに比べれば、凡庸とも思えるこの句のほうが、長持ちがする。このあたりが、俳句に限らず文学の奥深いところであって、もとより創作者にとって「新感覚」は必要条件なのだが、それがともすると感覚倒れになってしまうケースがあるから、とても怖い。シャープな人ほど、転倒しやすい。ま、そんなことはともかくとして、この句に込められた父性ならではの滋味を、じっくりと味わっていただきたい。『佐介』(1950)所収。(清水哲男)




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