April 1841998

 シクラメンたばこを消して立つ女

                           京極杞陽

近はクリスマス頃に出回るので、シクラメンを冬の花と思っている人もいるようだが、本来は春の花だ。わが「むさしのエフエム」の窓辺でも、小さいながらいまを盛りと咲いている。句は、喫茶店の情景だろう。まだ人前で喫煙する女性が珍しかった時代(1941年・昭和16年)の句で、華麗なシクラメンとの取り合わせが、いかにも「大人の女」を連想させる。今風に言えば、美貌のキャリアウーマンが煙草を消してスッと席を立ったというところか。往年の人気雑誌「新青年」の小説の一シーンみたいでもある。いかにも格好がよろしい。ところで、喫煙の是非はおくとして、近頃は煙草を吸う若い女性が非常に目立つようになってきた。吸いながら、街頭を闊歩している。ひところのパリみたいだが、残念なことには、ほとんどの女性が煙草に似合っていない。吸い方がなってない。だから、みんな煙草に飢えたニコチン中毒患者のように見えてしまう。あの不格好な吸い方だけは、何とかならないものだろうか。『くくたち上巻』(1946)所収。(清水哲男)




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