April 0941998

 東京を蛇の目に走るさくらどき

                           澁谷 道

の人(女性)の句は難しい。自作について「自らが吐いた息のかたち」と述べている文章があり、まことにもって「息のかたち」のように、見えにくいのである。見えにくいが、しかし、大いに気になる句の多い人だ。この句もそのひとつだが、瞬間、何が走るのかがまずわからない。考えているうちに頭痛がしてきたので、冷蔵庫からビールを引き抜いてきた。そこで、ほろ酔いの解釈。「蛇の目」は同心円を指し、このことから大小二つの同心円を持つ舞台のことを「蛇の目回し」という。つまり、内側と外側の舞台を逆にまわしたりと、時間差をつけられるわけだ。そこで、作者は東京の環状線である山手線に乗っているのだと、ほろ酔い気分が決めつけた。沿線のあちこちには桜が咲いており、車窓から見ていると、舞台の「蛇の目回し」のように見える。電車は「蛇の目回し」さながらに、各所の桜を次々に置きざりにして走りつづけるのだからだ。なんともはや、せわしない東京よ。……という解釈は如何でしょうか。反論大歓迎です。『素馨集』(1991)所収。(清水哲男)




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