April 0341998

 たそがれのなにか落しぬ鴉の巣

                           畑 耕一

までこそ、とくに都会では嫌われ者のカラスではあるが、かつては「七つの子」や「からすのあかちゃん」と歌にも歌われたように、人はカラスにむしろ親愛の情を抱いていた。頭がいいし、親子の情愛が深いところが好まれたのだろう。たそがれどき、高い樹の下を歩いていると、上の方からなにやら落ちてきた。ああ、きっとこの樹の上にはカラスの巣があるのだなと納得し、作者は暖かい気持ちになっている。カラスの巣は外側を枯れ枝で組み、内部には枯れ草や羽毛、獣毛などを敷く。この獣毛が動物園では問題で、井の頭自然文化園のヒツジの背中は、哀れにもすっかり禿げてしまっている。ここにはカラスが千羽ほどいるそうだが、かわりばんこにヒツジの背に飛来しては毛を失敬していくからである。上野の森のカラスは、なんとパンダの毛を巣づくりに使うという豪勢な話も聞いた。(清水哲男)




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