March 2631998

 脇甘き鳥の音あり春の闇

                           三橋敏雄

撲などで使う「脇が甘い」という言葉。「脇が甘い」と、相手に得意の差し手を許してしまう。要するに、守りに弱いということであり、緊張感を欠く状態を指している。月のないおぼろに暗い春の夜のひととき、本来の用心深さを忘れたような鳥の動く音が、どこからか聞こえてきたというのである。いや、実際に聞こえてきたのではないだろう。そんな感じがするほどに、生きとし生けるものがみな、甘やかな春の闇のなかで半ば陶然としている様子を象徴させた句だ。作者は、このときひとり静かに盃を手にしていたのかもしれない。となれば、いちばん「脇の甘い」のは作者自身というわけだが、この想像は、まあ私のような呑み助だけの深読みとしておこう。『鷓鴣』(1979)所収。(ところで、句集名を読めますか。正解は「シャコ」、キジ科の鳥の名前です。私は辞書を引きました)。(清水哲男)




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