March 0931998

 チューリップ買うて五分の遅刻して

                           岡田順子

ぎ足の出勤途中に、早咲きのチューリップが売っていた。とっさに職場に飾りたい気持ちが起きて、買う手間を費やしているうちに、遅刻してしまった。五分の遅刻が責められる職場なのだろう。遅刻の言い訳はできないが、買ってきたチューリップはやはり美しい。同僚たちも口には出さないけれど、気持ちがなごんでいるようだ。遅刻しても、買ってきた甲斐はあったのである。才気煥発という作品ではないが、最近の私は、むしろこういう句に魅力を覚えるようになってきた。雑誌「俳句」(角川書店・1998年3月号)の通巻600号記念特別座談会での黒田杏子の発言。「俳句って自分以上にまとまっちゃうところがある……」ところを極力避けて通っていこうとするならば、これも一つの意志的な書き方だと思いたい。絵の世界では、とっくに「ヘタウマ」の試みもあったことだし……。同じ作者に「すべりこむ電車はみどり日脚伸ぶ」などがある。「俳句文芸」(天満書房・1998年3月号)所載。(清水哲男)




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