March 0431998

 なんとよく泣くよ今年の卒業子

                           森田 峠

年にも、集団としての個性がある。なんとなく覇気に欠けるとか、派手好きの子が集まっているとか……。だから、それぞれの学年によって卒業式での雰囲気も異なる。教師である作者は、思いがけずにもよく泣く卒業生たちに、半ば苦笑しながらも、他方では愛情の深まりを感じている。たぶん、日頃は涙とはおよそ無縁の活発な学年だったのだろう。こういう句を読むと、誰もが自分の卒業時を思いだすにちがいない。私の高校卒業時は、涙など一切なかった。はじまると間もなく来賓の都会議員の挨拶があり、途中で誰かがいきなり「あーあ」と一声叫んだのだった。一瞬会場は真っ白になり、後は気まずい感じのままに式が終った。こんなふうでは、涙なんか流せっこない。叫んだのが誰かは知らないが、高校生にも共産党員がいた時代であり、ましてや基地の街にあった高校だ。保守系の議員の挨拶に反発しての「あーあ」だったのだろう。あれからもう四十年余の月日が流れた。当時当惑されたであろうC組担任のT先生は、矍鑠としてご健在である。『避暑散歩』(1973)所収。(清水哲男)




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