February 2421998

 筐から筐をとり出すあそび鳥雲に

                           折笠美秋

(はこ)を開けると、元の筐よりも少し小さい筐が入っていて、その筐を開けると、また次の筐が入っている。どこまで開けても筐また筐という遊びの魅力は、どこにあるのだろうか(ロシア人形にも同じ仕掛けのものがある)。筐の中の筐という発想は、同型のものがどんどん小さくなって消えていくわけだから、一種のアニメーション効果をねらったものだ。そしてこの効果は、子供心に喪失のはかなさを魅力的に伝える働きをする。ちょうどそれは、これからの季節、渡り鳥が雲の中に消え去っていくように見える不思議な魅力と重なっているようだと、作者は言うのである。戦争中に学童疎開をテーマにした「父母のこゑ」という歌があって、そこには「山のいただき/雲に鳥」というフレーズが出てくる。鳥ですらも故郷に帰れるのに、子供らは帰れない……。子供たちよ「望み大きく育てよ」と、この歌は遠くはるかな故郷より呼びかける父母の声で終っている。小さな子供たちが雲に入る鳥にさえ憧憬を抱いたとき、その喪失感はいかばかりだったろう。彼らもみな、六十代になった。(清水哲男)




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