February 0821998

 春淺し止まり木と呼ぶバーの椅子

                           戸板康二

近、バーというところには行ったことがない。若いころには気取りもあってよく出かけたが、ちゃんとしたバーは神経が疲れていけない。料金も馬鹿にならない(こちらの理由が本音?!)。ほっとするためには、大衆酒場にかぎる。太宰治の写真で有名な銀座の「ルパン」には何度か入ったことがあるが、椅子はまさに「止まり木」で、座ると足が宙に浮いた。この句も、そんな高い椅子に腰掛けての発想だろう。浅いとはいえ、春は春だ。「止まり木」にとまる春鳥になったような気分も悪くはないと、作者は上機嫌である。上手な句でもなんでもないが、この気分はいまどきの呑み助けにも気持ち良く通じるだろう。はしゃいだ句も、たまにはいいものだ。作者は著名な演劇評論家であり、推理小説も書いた。1993年没。『袖机』(1989)所収。(清水哲男)




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