February 0121998

 塗椀に割つて重しよ寒卵

                           石川桂郎

ぜ「寒卵」という季語があるのでしょうか。卵などは四季を通じてあるもので、特別に冬の卵が珍しいわけではない。いまの人は、誰もがそう思っていると思います。しかし、もちろん季語には季語となるそれなりの根拠があったわけです。まったく風流とは関係がないのですが、こういうことです。本来、鶏の産卵期は冬であり、とうぜんこの時期の卵は値段も下がったので、庶民の冬場の栄養補給源として格好な食物でした。だから、冬の卵は特別視されていたということなのです。……という、見事に散文的な理由。ところで、作者の観察眼はなかなか細かいですね。たしかに同じ卵でも、瀬戸物の茶碗と塗椀とでは、割って落としたときの「重さ」が違うような気がします。すなわち、この句の「寒卵」は「塗椀」を得たことによって、はじめて風流な卵になれたというわけなのです。(清水哲男)




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