January 2811998

 鉢うへの松にかぶせる頭巾かな

                           住田素鏡

鏡は、江戸期信州長沼の人。一茶門。富裕な百姓で、一茶はしばしば厄介になっていたようだ。なんということもない句だが、大切な松の木に頭巾をかぶせてやるという優しさに、一茶につながる心根が感じられる。実はこの句は、同門であった松井松宇の還暦賀集『杖の竹』に寄せたもので、句の「松」には二重の意味、つまり挨拶が込められている。頭巾といえば、私の世代では命からがらの時のための「防空頭巾」だが、江戸期には防寒用として広く用いられ、お洒落感覚でかぶった人も多かったという。なかには覆面に近いものもあり、幕府はたびたび禁じている。ところで、前書の素鏡の頭巾論はこうだ。「頭上より背まで能覆ふべし。凩の強きも能ふせぐべし。頬は少し出れど、つらの皮の本千枚ばりならバ構ひなかるべし」と。この茶目っ気も一茶に通じている。栗生純夫編『一茶十哲句集』(1942)所収。(清水哲男)




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