January 2711998

 練炭の灰に雨降る昼屋台

                           北野平八

んとも侘びしい光景。昨夜の屋台営業の名残りである練炭(れんたん)の灰に、冷たい雨が降りかかっている。どうやら今夜まで、この雨はつづきそうだ。こんな侘びしい気分を的確に捉えた、なんとも素敵な北野平八の才気。「上手いなア」と、思わずもつぶやかされてしまう。練炭の灰は、見た目よりもよほど頑丈だから、ちょっとやそっとでは崩れたりはしない。その感覚が理解できないと、この句の味もわからないだろう。例によって余談になるが、私の職場である放送局には若い人が多い。つい最近、練炭のことを聞いてみたら、やはりわかった人は少なかった。タドンと間違える人はまだよいほうで、何に使うのか見当もつかない若者もいた。無理もない。もはや、都会の生活の場で練炭を使うことなどないからである。そういえば昨年の暮れ近く、新聞に北京で練炭を売る少年の写真が載っていた。まだ日常的に使っている国もあるというわけだ。もう一度、赤く燃える練炭ストーブに会ってみたい。『北野平八句集』(1987)所収。(清水哲男)




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