January 2011998

 冬苺廉ければ一家にて賞す

                           成瀬櫻桃子

書に「一九五六年一月十八日、長女美菜子誕生」とある。敗戦後まだ十年少々の頃だから、赤ちゃん誕生のお祝いもささやかなものであった。廉価だとはあるけれど、この当時の冬苺(温室物ではない)だから、お祝い物という観点からすれば安かったという意味だろう。まことに微笑ましい情景である。が、人生には、普通に生きているつもりの一市民が夢想だにもしない現実が待ち構えていたりする。私が成瀬櫻桃子の句を読むのがつらくなったのは、次の句を知ってからのことであった。こういう句だ。「地に落ちぬででむし神を疑ひて」。前書には「長女美菜子ダウン氏症と診断さる」とある……。『風色』(1972)所収。(清水哲男)




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