January 1611998

 酒のめばいとゞ寝られぬ夜の雪

                           松尾芭蕉

書に「深川雪夜」とある。芭蕉四十三歳。芭蕉はサラリーマンではなかったから、大雪になっても、翌朝の通勤を心配することはない。だが、酒を飲んでも、飲むほどに寝る気にはなれないというのだ。降雪による興奮で、かえって頭が冴えてくるからである。「雪見酒」のような呑気な酒にはならない。つまり、この句には人間がいかにデリケートに自然と交感する存在であるかが、具体的に描かれている。台風などのときにも、こういうことはよく起きる。首都圏は、ひさかたぶりの大雪だ。自然の成り行きに逆らって出勤するサラリーマンたちのストレスは、いかばかりであろうか。かく言う私も、例外ではない。諸兄姉の安全を祈る。『勧進牒』(貞享三年・1687)所収。(清水哲男)




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