January 1011998

 風邪声で亭主留守です分りませぬ

                           岡田史乃

かを至急に知りたくて、作者は知り合いの男性に電話をかけたのだろう。ところが、電話口に出てきたのは彼の奥さんで、応対はきわめてつっけんどんだった。どうやら、無愛想な相手は風邪を引いているらしい。途端に、作者も不愉快な気分になってしまった。この句から読み取れるのは、風邪声をダシにしての女性同士の一瞬の確執である。電話がかかってきた側は、風邪を引いているという理由におぶさって冷たい態度に出ているわけだが、かけた作者としてはたかが風邪ごときで大げさなことだと腹を立てている。お互いが彼をめぐって、ちょっとした鞘あての格好になってしまったのだ。たぶん、日頃から好感を持てないでいる同士なのだろう。電話はときに暴力にもなるが、ときには故なき暴力を受けているフリを、相手にアピールできるメディアでもある。作者は敏感に、そこに着目している。『浮いてこい』(1983)所収。(清水哲男)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます