January 0911998

 冬木立ばたりと人が倒れたり

                           柴崎昭雄

景かもしれないが、私は想像した光景と読んだ。そのほうが面白い。枯れ木のつづく道を歩いていた人が、突然倒れてしまう。滑って転んだというようなことではなくて、急にワケもなく倒れてしまったのだ。しかも、音もなく……。「ばたり」は音ではなく、あっけなく倒れる様子を表現している。そして、この人は永遠に起き上がることもなくて、あたりはまたしんと静まりかえった冬木立だけの世界である。トポールの白と黒の絵を知っている人なら、たとえばあの絵が動いてこうなったのだと思うと、私の解釈にさして無理のないことを納得していただけるかもしれない。滑稽と無気味が共存しているユニークな発想だ。作者の詩的出発は川柳だから、それが冬木立でありうべき光景をとらえるのに効果的な力を発揮しているのだと見た。作者は、十八歳のときのバイクによる事故が原因で車椅子生活をつづけている。青森県在住。『木馬館』(1995)所収。(清水哲男)




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