December 30121997

 冬波の百千万の皆起伏

                           高野素十

この海だろうか。漢字の多用効果で、いかにも冬の海らしい荒涼たる雰囲気が力強く伝わってくる。視覚的に構成された句だ。句意は説明するまでもないが、歳末に読むと、自分も含めた人間の来し方が百千万の波の起伏に象徴されているようで、しばし感慨にふけることになる。高野素十は医学の人で、俳壇では昭和初期に4S (秋桜子、誓子、青畝、素十)とうたわれた客観写生俳句の旗手であった。虚子は素十について、「磁石が鉄を吸う如く自然は素十君の胸に飛び込んでくる。文字の無駄がなく、筆意は確かである。句に光がある。これは人としての光であろう」と書いている。『雪片』(1952)所収。(清水哲男)




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