December 24121997

 ごうごうと風呂沸く降誕祭前夜

                           石川桂郎

や石炭で沸かす風呂釜の音は、まさに「ごうごう」。とりわけて銭湯の釜の音は威勢がよかった。そんな釜音を心地よく聞きながら、作者は今日がクリスマス・イヴであったことを思い出している。イヴだからといって、別に何か予定があるわけではない。ちらりと胸の中を、華やかなイルミネーションの姿が通り過ぎていっただけのこと。これからゆっくりと熱い風呂に入り、年賀状のつづきでも書くとしようか……。西洋の大祝日に日本的な風呂を配したところが、なんとも微妙な味わいにつながっている。キリスト者は別にして、昔の庶民的なイヴのイメージとは、およそこのようなものであった。それにしても、「ごうごう」と音を発して沸く風呂が懐しい。あれは、身体の芯から暖まった。そして、どこの家庭の風呂場の屋根にも、決してサンタクロースが入れっこない細い細い煙突がついていたっけ。(清水哲男)




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