December 18121997

 歳暮ともつかず贈りて恋に似る

                           上村占魚

暮本来の意味は、日頃の好誼を相互に感謝しあうために贈り物を交換したり、酒宴を設けたりすること。したがって、忘年会も立派な「歳暮」(正式には「歳暮の礼」)のうちなのであった。が、いつの間にか、物を贈ることだけを「歳暮」と言うようになり、デパートが忙しいというわけである(もっとも、そのデパートなどの商魂が、古来の意味を今日的に転化させたと言うほうが正確かもしれないが……)。句の作者は、そんな慣習のなかで、歳暮という形で物を贈るには不似合いの相手に、プレゼントの品を贈ってしまった。相手は、職場関係でもなく姻戚関係でもなく、さりとて日頃仕事上で特別の世話になっている人でもない。平常、なんとなく好意を持っている相手なのであり、他の人たちに贈るときに、ついでのようにして発送を依頼したのだった。その振るまいを考えてみるに、なんだか「恋の心」からのようだと、作者は微苦笑している。貰った側は、おそらく何かの間違いではないかと、しばし首をかしげたことであろう。(清水哲男)




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