December 14121997

 木がらしや目刺にのこる海のいろ

                           芥川龍之介

句には違いない。木枯らしの音と目刺しの青い色とが響きあう。巧みなものである。ただ、生活臭はまったく感じられない。このことは、実は作者が最も気にしているところで、平仮名の神経質な用い方にそれがうかがえる。句の光景に、なんとか人間の匂いを入れようと苦心している。ちなみに「凩や目刺に残る海の色」と漢字を多用してみると、そのことがよくわかるだろう。ここで芥川の最初の発想は、木枯らしと目刺しの取り合わせの妙を面白がりすぎていて、その面白がりようはモダニズムのそれに近いものだと思う。つまり、木枯らしや目刺しの本源的なありようよりも、関心は別のところにあったというわけだ。だから、これではならじと必死に本源へ引き戻している姿が、平仮名の用い方に滲み出ている。が、そのような苦闘にもかかわらず、この句は一枚のしゃれた絵なのであって、現実には届いていないと読んでおく。(清水哲男)




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