December 09121997

 猫に顔見られゐるなり漱石忌

                           林 淳実

日九日は漱石忌。大正五年(1916)に宿痾の胃病のために亡くなった。四十九歳という若さだった。先刻から千円札の肖像をを眺めているが、とても四十代とは思えない立派な顔だ。口髭のせいかと、指で髭の部分をかくしてみると、いくらかは若いようにも見える。でも、いまどきの四十代には見当たらない貫禄のある表情だ。漱石といえば、もちろん猫。作者も自分の飼い猫に漱石の猫をダブらせていて、ひょっとするとこの猫も自分を観察しているのかもしれないという思いにとらわれている。そこが面白いとも言えるが、ちょっと芸が足りない感じ。これでは、漱石の猫に鼻で笑われてしまいそうだ。角川書店編『俳句歳時記・第三版』に敬意を表して引いておく。ところで『吾輩は猫である』を最初から最後まで読んだ人は、どのくらいいるのだろうか。奥泉光『「吾輩は猫である」殺人事件』(新潮社)の栞の著者との対談で、柄谷行人がこんなことを話している。「最後まで読んだ人は案外少ないと思いますよ。読んでいない人も少ないけど、全部読んだ人も少ない。『資本論』と同じでさ(笑)」。べつに読んでなくても構わないとは思いますが、どうなのでしょうか。つい最近、職業上の必要からですが、私は全部読みました。たぶん、三度目です。(清水哲男)




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