December 06121997

 膳棚へ手をのばしたる火燵かな

                           温 故

戸期の句。膳棚は椀などの食器を置いておく棚のことで、火燵(こたつ・炬燵)に入ったまま、何かを取るために棚の方に思いきり手をのばしている図。作者ならずとも、誰しもがそんな経験を持つ。だから、誰もがこの句にニヤリとしてしまう。漫画の「サザエさん」にも、似たようなシーンがあったような気がする。誰が言い出したのか、火燵には「無性箱」なる異名もあったという。近頃では室内暖房の様子も昔とはだいぶ違ってきて、炬燵も過去のものとなりつつあるが、炬燵がなくなっただけ、人の動きは活発になっただろうか。活発になったとしても、一家団欒の場が失われたこととの<損得勘定>はどんなものだろう。柴田宵曲『古句を観る』(岩波文庫)所載。(清水哲男)




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