November 21111997

 ベッド組み立てて十一月の雨

                           皆吉 司

集のあとがきを読むと、新居を構えて間もないころの作品だ。作者の家が放火で焼かれ、一年間ほどの仮住まいの後の新居である。注文しておいたベッドが届いたのは、あいにくの雨の日だ。それでも細目に窓を開けて、組み立てていく。ベッドの枠や脚のパイプも冷たいが、外の雨も冷たい。ようやく組み立て終ってみると、ベッドはにわかに暖かい雰囲気になる。雨はあいかわらず冷たそうに降っているけれど、部屋のなかにいる作者は逆に暖かい心持ちになっている。ささやかな仕事を終えた充実感に満たされている。このとき、作者は二十代前半。雨とベッドの対比も若々しい。『ヴェニスの靴』(1985)所収。(清水哲男)




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