November 11111997

 何もせぬごとし心の冬支度

                           三橋敏雄

るほど。心の冬支度だから、外見には現れないわけだ。冬が迫ってくると、たしかに心は緊張の度を増す。たとえばスキーやスケート、あるいは猟などが大好きな人はべつにして、戸外での活動が衰え、どうしても内面的な生活に比重がかかってくるからだろう。暖房設備の乏しかった昔に比べて、現今の「目に見える」冬支度のあわただしさは減少したが、それだけ「心」の支度は膨張してきたようでもある。冬の夜は、とりわけ寒くて長い。この長い夜の時間を活用して、何事かをなしとげようと心の準備に入っている読者も多いことだろう。それにしても「心の冬支度」とは、誰にでもすらりと発想できそうであるが、実はなかなか出てこない概念だと思う。作者ならではの独特な心の動きだ。「俳句」(1997年1月号)所載。(清水哲男)




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