November 09111997

 爛々と虎の眼に降る落葉

                           富沢赤黄男

葉の句には、人生のちょっとした寂寥感をまじえて詠んだものが多いなかで、この句は異色中の異色と言える。動物園の虎ではない。野生の虎が見開いている爛々(らんらん)たる眼(まなこ)の前に、落葉が降りしきっているのである。そんな状況のなかでも、微動だにしない虎の凄絶な孤独感が伝わってきて、一度読んだら忘れられない句だ。作者がこの虎の姿に託したのは、みずからの社会的反逆心のありどころだろうが、一方ではそれが所詮は空転する運命にあることもわきまえている。昔の中国の絵のような幻想に託した現実認識。深く押し殺されてはいるけれど、作者の呻き声がいまにも聞こえてきそうな気がする。(清水哲男)




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