November 05111997

 寝ておれば家のなかまで秋の道

                           酒井弘司

つかれずにいると、たまさか猛烈な寂しさに襲われることがある。理由など別にないのであるが、心の芯までが冷えてくるような孤独感にさいなまれる。これで聞こえてくるものが、山犬や狼の遠吠えであったりしたら、もうたまらない。作者は、いわゆる「都会」に住んでいる人ではないから、これに似た寂寥感を覚えているのだろう。それを描写して「家のなかまで秋の道」としたところが凄いと思う。人間のこしゃくな智恵の産物である「家」のなかにも、古くから誰とも知らぬ人々が自然に踏みわけてきた道は、それこそ自然に通じていて当然なのだ。私たちはみな、路傍ならぬ道の真ん中で寝ているようなものなのだ。しかも物みな枯れる「秋の道」にである。怖いなア。不眠症の人は、この句を知らないほうがいいでしょうね。あっ、でも、もう読んじゃったか……。では、少なくとも今夜までに早く忘れる努力をしてくださいますように。『青信濃』(1993)所収。(清水哲男)




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