November 04111997

 空がまだ濁らぬ時刻小鳥くる

                           大庭三千枝

の夜明けは遅い。早起きの作者が待ちかねて窓を開けると、しらじらと明け初めた空の一角には、もう小鳥たちが飛んでいる。同じ冷気のなかにある人と小鳥。「おおい、おはよう……」と声をかけたくなるような親愛感が湧いてくる。人も車も動きださない時刻の空は、あくまでも透明で爽やかだ。さりげない情景だが、秋の早朝の気分をよくとらえていて、好もしい。早起きの人には、とりわけてよい句に思えるだろう。ところで、この句の季語は何でしょうか。「小鳥来る」が秋の季語であることを知らない人は、けっこう多いと思います。小鳥なんて、いつだって来るからです。このあたりが季語の厄介なところですが、俳句の世界では、昔から秋に渡ってくる小鳥たち(つぐみ、ひわ、あおじ等)に限定して使ってきました。他の季節の小鳥と違い、群をなして飛ぶ様子が印象的だからなのでしょう。『花蜜柑』(1997)所収。(清水哲男)




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